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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)156号 判決 1989年7月18日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、四〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年三月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五六年二月一七日、被告の姉である奧山〓子(以下「〓子」という。)、同三輪悦子(以下「悦子」という。)及び被告の母である奧山まち(以下「まち」という。)並びに同人らが被告のために委任した福田敏行弁護士との間で、当時建設が予定され、被告が取得することになっていた別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)につき、左記の内容の賃貸借予約契約(以下「本件予約」という。)を締結した。

(一) 原告は、本件建物を被告から賃借することを予約する。

(二) 被告は、原告に本件建物を引き渡すまでに原告と本件建物に関する賃貸借の本契約を締結する。

(三) 被告の都合で本件建物の賃貸借の本契約を締結することができないときは、被告は、原告に対し、四〇〇〇万円の損害賠償金を支払う。

2  〓子、まち及び悦子並びに福田弁護士は、被告のためにすることを示して、本件予約を締結した。

3  被告は、本件予約の締結に先立ち、〓子、まち及び悦子に対し、自己の財産の管理処分について包括的な代理権を与えた。

4  被告は、原告が昭和五七年四月下旬ころ本件建物賃貸借の本契約の締結を請求したところ、これを拒絶した。

5  よって、原告は、被告に対し、本件予約の約定に基づき損害賠償として四〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六三年三月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし4の事実は否認する。被告は、生来の意思無能力者であり、法律行為と認められるような言動をすることはあり得ない。

三  被告の抗弁

被告は、生来の意思無能力者であって、法律行為をする能力がない。したがって、仮に被告が外形上〓子、まち及び悦子に対する代理権授与行為と認められるような言動をしたとしても、その効力は生じない。

四  被告の抗弁に対する認否

争う。被告は、社会的な常識はある程度発達しており、診察に行っても疑問があると姉〓子に問いかけ、テレビは刑事ものやサスペンスもの等を好んで見、自分の物と他人の物とを神経質なほどに区別し、自分の物を他人に触れさせない。また、後見人である悦子の家に一人で行ったり、自分で買物をすることもできる。したがって、被告には、包括的に自己の財産の管理等を〓子らに委託するだけの精神的な能力があったというべきである。

五  原告の主張

1  従来、被告の財産は、被告と同居している〓子、まち及び同人らの住居の近くに居住する悦子が、二〇年近く事実上の後見人としての立場で管理してきたものであり、これについて何人も異議を述べたことはなかった。そして、本件予約締結の交渉は、被告の事実上の後見人である〓子、まち及び悦子により進められ、本件予約は、同人らと同人らが被告のために依頼した福田弁護士とが被告を代理して締結したものであり、本件予約の締結については、被告と同人らとの間になんの利益相反関係もなかった。このように本件予約が締結された経緯をみるならば、被告の利益保護に欠けるところはなく、しかも、悦子自身も、当時、本件予約の締結に関与していながら、後見人となった後、本件予約の追認を拒絶し、本件予約が無効である旨の主張をすることは、取引の相手方である原告の利益を著しく侵害するものであって信義則に反し又は権利の濫用として許されない。

2  〓子、まち及び悦子は、右のとおり二〇年近く、被告の事実上の後見人の立場で被告の財産の管理を続け、被告の代理人として、本件予約を締結しておきながら、本件訴訟の差戻前の第一審において、本件予約に基づく原告の被告に対する損害賠償請求権を認容する判決が言い渡されるや、自ら締結した本件予約を無効にするため、禁治産宣告の申立てをし、後見人に選任された悦子をして本件予約の無効を主張させるに至った。しかし、右禁治産宣告の申立て及び本件予約の無効の主張は、無能力者制度の悪用というべきであり、許されないものというべきである。

六  原告の主張に対する認否

争う。

第三  証拠(省略)

(別紙)

物件目録

一(一棟の建物の表示)

所在     品川区大崎四丁目一三八番地四

構造     鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根一一階建

床面積    一階        三〇七・七七平方メートル

二階        一九七・九〇平方メートル

三階ないし一〇階  二〇四・八七平方メートル

一一階       一四八・九八平方メートル

(専有部分の建物の表示)

家屋番号   大崎四丁目一三八番地四の三

建物の番号  一〇一

種類     店舗

構造     鉄骨鉄筋コンクリート造一階建

床面積    一階部分 三三・九四平方メートル

二 (一棟の建物の表示)

一に同じ

(専有部分の建物の表示)

家屋番号   大崎四丁目一三八番地四の四

建物の番号  二〇三

種類     事務所

構造     鉄骨鉄筋コンクリート造一階建

床面積    二階部分 三〇・五七平方メートル

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